本来、人間の呼吸は鼻を通じて行われるものである。しかし、鼻閉・アデノイド肥大・口腔周囲筋の機能不全などを原因として、口から呼吸する「口呼吸」が習慣化するケースは少なくない。口呼吸は単なる呼吸様式の問題にとどまらず、口腔・顎顔面・全身に広範な悪影響をおよぼすことが、近年の研究によって明確に示されている。

口腔乾燥・齲蝕・歯周病リスクの上昇
口呼吸の最も直接的な口腔への影響は、唾液の蒸発による口腔乾燥(口腔乾燥症)である。唾液は口腔内の自浄作用・緩衝能・抗菌作用を担う。口呼吸による唾液量・質の低下は、齲蝕原因菌の増殖を促し、歯肉炎・歯周炎のリスクを高める(Kimura et al., Int J Paediatr Dent, 2025; PMID: 40739849)。2025年に公開されたこのシステマティックレビューは、口呼吸の小児・青年では非口呼吸群と比べ齲蝕および歯周病の有病率が有意に高いことを示した。また、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)に伴う口呼吸が口腔乾燥・歯ぎしり・歯周病を増悪させることも、2024年のリテラチャーレビューで確認されている(Ramar et al., Dent J, 2024; PMID: 11274061関連)。
口腔機能の低下
Masutomiら(Sci Rep, 2024; PMID: 38360938)は、青年期における口呼吸と口腔機能の関係を検討し、口呼吸者では鼻呼吸者に比べ口唇閉鎖力・舌圧・咀嚼効率がいずれも有意に低下していることを報告した。また、舌骨の前後的位置が後退しており、顎顔面形態にも影響が及んでいることが示された。口呼吸は低位舌・異常嚥下(舌突出癖)とも高率に併存することがメタ解析で確認されている(Gómez-González et al., Dent J, 2024; PMID: 38392225)。
顎顔面・咬合への影響
成長期の小児における口呼吸の影響は特に深刻である。Cascinoら(Children, 2025)のナラティブレビューは、口呼吸が上顎の発育不全・アデノイド顔貌・開咬・下顎後退・高口蓋など多様な不正咬合を引き起こすことを示した。口呼吸では安静時の舌が低位となり、上顎への側方圧が失われることで歯列弓が狭窄し、歯並びの乱れへと進展する。矯正治療の効果を最大化するためにも、口呼吸の原因除去と筋機能訓練(MFT)が不可欠とされる。
全身への影響:睡眠・認知・成長・心血管
口呼吸は閉塞性睡眠時無呼吸症と密接に関連し、睡眠の質の低下・日中の眠気・集中力低下をもたらす。小児では作業記憶・読解力・算数能力の低下との関連も報告されており(Masutomi et al., 2024)、学習・発達への影響が懸念される。また、成人においては鼻呼吸時に産生される一酸化窒素(NO)が減少することで、血管拡張・気道感染防御・血圧調節機能が損なわれる。OSA関連の口呼吸では高血圧・心血管疾患・軽度認知障害との関連も示されている。
まとめ
口呼吸は「癖」として軽視されがちだが、そのまま放置すると齲蝕・歯周病・不正咬合・口腔機能低下から全身疾患まで広範な健康問題へと連鎖する。早期発見・原因治療(耳鼻科的介入・矯正治療・筋機能訓練)により、多くの悪影響を予防・改善できる。鼻呼吸の確立は口腔・全身の健康の基盤である。
参考文献
- Kimura ACRS, et al. Dental Caries and Periodontal Outcomes in Mouth-Breathing Children and Adolescents: A Systematic Review. Int J Paediatr Dent. 2025; PMID: 40739849
- Masutomi Y, Goto T, Ichikawa T. Mouth breathing reduces oral function in adolescence. Sci Rep. 2024; PMID: 38360938
- Gómez-González C, et al. Mouth Breathing and Its Impact on Atypical Swallowing: A Systematic Review and Meta-Analysis. Dent J (Basel). 2024; PMID: 38392225
- Cascino F, et al. Oral Breathing Effects on Malocclusions and Mandibular Posture: Complex Consequences on Dentofacial Development in Pediatric Orthodontics. Children. 2025. doi: 10.3390/children12010072
- Ramar K, et al. Oral Health Implications of Obstructive Sleep Apnea: A Literature Review. Dent J (Basel). 2024. PMC11274061
監修:髙橋弘樹(歯科医師・歯学博士)
