成長発育期の歯科医療

④小児の歯周疾患について

永久前歯交換以後に頻発してみられる歯周疾患について

1)萌出性歯肉炎

歯の萌出は、それ自体生理的な現象ですが、組織学的所見からは萌出が進行すると歯肉粘膜固有層の吸収が起こり、基底膜が断裂して消失していきます。上皮内には細網様細胞の侵入がみられ、粘膜固有層にリンパ球様細胞の浸潤など炎症様像を示すようになります。したがって、歯の半萌出の際に、萌出部分の歯肉がはじめ歯冠に沿って明瞭な赤色線状に発赤してきます。歯垢の付着や食渣の停滞があると、炎症性変化が明らかとなります。一般に自覚症状は少ないですが、ときに疲労や熱性疾患など全身環境にも影響を受け、異様感や触診に対して敏感になっています。ときに臼歯部において咬頭の間に歯肉が存在しているときには、発赤、腫脹が著しく、強い炎症症状を生じます。また歯の萌出が進むにしたがって症状が軽減します。(引用:成長発育期の歯科医療)

小児歯科医療 高橋ひろし歯科医院

2)不潔性歯肉炎

 小児に最も多い歯肉炎で口腔清掃が十分に行われないために発生し、歯間乳頭部や歯肉辺縁に限局した歯肉炎です。健全歯肉から歯肉炎に移行する初期には、まず歯冠乳頭炎になるものが圧倒的に多く、症状が進行すると、歯間乳頭部や辺縁歯肉にかけて浮腫状に腫脹し歯間乳頭は著しく充血して紫赤色になり、わずかな刺激で出血が生じるようになります。また症状が著しくなく、慢性的な経過をとった場合には歯間乳頭が有弁状の増殖を示してくることがあります。この歯肉炎では炎症を示す歯肉縁から歯面、さらには歯間三角にかけて食渣、歯垢などの付着物があります。一般に、7歳前後の小児は歯ブラシの使用が上手でなく、また交換した歯の萌出が途中で、歯と歯肉とで形成される解剖学的な形態から食渣や歯垢が付着しやすく、清掃も難しくしています。

3)叢生性歯肉炎

 歯の叢生により歯間乳頭部が異常に圧迫されたり、また異常鼓形空隙の形成により自浄作用が障害され、食渣が停滞したり、さらに食物の流れが歯肉に異常な刺激を与え、叢生歯肉部に炎症や肥厚が生じた状態です。永久前歯の交換萌出期には、一時的に叢生状態を生じることがあるので、口腔の衛生管理が大切です。
 歯が著しく唇側に萌出して叢生を生じているときには、萌出歯の歯肉縁が歯槽粘膜で構成され、わずかな付着歯肉があって歯肉の垂直的な発育はありません。また、歯を適正な位置に矯正しても、付着歯肉は正常な幅をもつまで発育しないので、口腔清掃が不十分なときには、歯槽部の骨破壊を生じて歯肉退縮を生じやすいです。

4)口呼吸小児にみられる増殖性(肥厚性)歯肉炎

この歯肉炎は、口輪筋の括約が不十分な時、また鼻咽腔の異常から口呼吸徴候がある学童期は、口唇が長期にわたって開いている状態になり、冷たい空気が直接前歯部歯肉を刺激し、また粘膜表面を乾燥させ、唾液が粘稠となりやすく、歯や歯肉に食渣が停滞しやすくなり、歯肉に炎症を起こし肥厚増殖します。
 軽症の時は、唇側歯肉が単に炎症をおこすのみですが、重症になると前歯部唇側歯肉の肥厚増殖性の病変を生じ、粘膜表面が粗造になり、明瞭な小帯状の肥厚を示すようになります。著しい時には歯間乳頭がキノコ状に増殖し歯冠をおおい歯を埋入させることがあります。この頻度は、口腔清掃が不良なほど高くなります。

5)思春期性歯肉炎

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この歯肉炎は第二次性徴期(思春期)に発現する歯肉の炎症性疾患について名づけられたものであり、小学校高学年あるいは中学校の男女の学童・生徒にみられ、辺縁歯肉および歯間乳頭部が発赤・腫脹し、きわめて出血しやすくなります。一般に口腔清掃が良好なものにみられることが注目されます。  
 この歯肉炎は唇側および頬側歯肉のみが腫脹し、舌側歯肉には比較的変化が少ない場合が多いです。初期には辺縁歯肉に光沢のある滑らかな状態で腫脹し、歯肉の変色粘度が少ない時は固さがあります。しかし、口腔清掃が不十分で炎症症状が強くなると、歯間乳頭部は乳頭状または海綿状となり、著しい出血傾向が現れるようになります。
 思春期における内分泌の変化が、この歯肉炎に影響を持つことは十分に考えられますが、その詳細は明らかではありません。この疾患は持続して放置されれば、20歳前後で高度の歯周疾患に進行すると思われますので、注意しなければいけません。(引用:成長発育期の歯科医療)

6)辺縁性歯周炎

小児には比較的少ないですが、13~15歳の思春期ごろから見出されます。臨床症状は歯肉炎と似ていますが、骨縁上の歯周ポケットが必ずあり、高度な例では骨縁下ポケットを形成します。病因は歯肉炎と同じですが、成長発育期の咬合、全身的、心理的要因などが疾患の進行にも関与すると思われます。(引用:成長発育期の歯科医療)

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また、若年性歯周炎の取り扱いが重要になります。この疾患は、全身的には健康な若年者(11-13歳から20歳代前半)の永久歯列の1歯以上に発症する急速なアタッチメントロスと垂直性の骨吸収を特徴とする歯周疾患です。
 若年性歯周炎は、第1大臼歯と切歯付近にのみ病変がみとめられる限局型若年性歯周炎と、広汎型若年性歯周炎の二つの基本的な病型が存在します。
 発症は11-13歳ころと考えられ、永久歯萌出後に起こります。また、男子に比べ女子に多く発症し、家族性に発症する傾向があります。限局型における骨吸収像は左右対称にみとめられ、第2小臼歯遠心から第2大臼歯近心にかけてアーチ状に吸収像がみられることが多いです。
 治療は、成人型重度歯周炎の場合と同様に、ブラッシングなどによるプラークコントロール、ルートプレーニング、歯周外科処置などを行い、抗生物質(テトラサイクリン)の投与を併用すると、良好な治療効果が得られることも報告されています。