むし歯(う蝕、デンタルカリエス)とは、ミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス:連鎖球菌の一種)などのう蝕病原菌によっておこされる歯が崩壊していく病気です。ミュータンス菌はプラークを住みかとして活動しますので、プラークのたまりやすい部分、すなわち、臼歯の溝、歯と歯の間、歯と歯肉の境目などにむし歯が多く発生します。
歯の表面が十分に硬くなるには、唾液に数年間ミネラルを補給してもらう必要があります。したがって、乳歯のころや永久歯になっても20歳ころまでは唾液による歯の保護・強化が十分ではなく、よくむし歯にかかってしまいます。また、唾液は細菌の増加を抑えたり歯の表面にできた酸を中和したりして歯をむし歯から守っているのですが、高齢になると唾液の量が少なくなるので再びむし歯にかかりやすくなります。そのうえ年をとると歯茎が下がるので、とくに歯と歯肉の境目にむし歯ができやすくなります。
むし歯は進みぐあいによって、エナメル質う蝕(C1)、象牙質う蝕(C2)、歯髄炎を伴うう蝕(C3)、残根状態のう蝕(C4)に分けられます。
エナメル質う蝕(C1)
初期のむし歯で、歯の破壊がエナメル質に止まっているものです。エナメル質の表面は最も硬いので、最初は表面直下のカルシウムやリンから溶け出します。よくみると歯の表面は白く濁ったり、色がついたようになっています。自覚症状がほとんどないため、そのままにしがちですが、ほおっておくと表面は崩壊して穴があいてきます。エナメル質はエナメル小柱という柱状の構造物からできているので、むし歯はエナメル小柱に沿って円錐の形に進んでいきます。
治療は、むし歯を削り取り、コンポジットレジンという歯の色に近い樹脂で塞ぎます。
象牙質う蝕(C2)
むし歯がエナメル質を越えて象牙質にまで進行したものです。色も黒くなり、はっきり見えるようになります。象牙質には象牙細管という管が走っていて、むし歯はこの象牙細管に沿って円錐の形に進んでいきます。象牙質には厚みがあるので初めはほとんど自覚症状がありませんが、歯髄近くまで進むと歯髄が充血してきて、冷たいものや甘いもので歯がしみるようになります。
治療は、むし歯を削り取り、コンポジットレジンという歯の色に近い樹脂で塞ぎます。または、むし歯を削り取った部分の形を整え、型を採ります。後日詰め物が完成したら来院し歯と詰め物を接着します。
歯髄炎を伴うう蝕(C3)
むし歯が歯髄まで進行し、歯髄の炎症をひきおこしたものです。歯髄は血管や神経の豊富な軟らかい組織で、一般に“神経”とよばれています。むし歯がここまで達すると歯髄内の血管が充血、拡張して炎症をひきおこします。冷たい水だけでなくお湯にもしみるようになり、ズキズキと痛みます。大きなむし歯の穴があき食べ物がつまって激痛がおきます。歯髄が化膿して、夜寝ている間に急激に痛みだしたりします。それをほおっておくと炎症は歯髄全体に広がっていき、やがて歯髄が死んでしまいます(歯髄壊死)。
治療は、むし歯を完全に削り取り、歯髄を除去し根管内にお薬を詰めます。 削った部分を被せ物がしやすいように形を整えたり土台を入れ、型を採ります。後日被せ物が完成したら被せ物を接着します。
残根状態のう蝕(C4)
歯冠はほとんど崩壊し、歯根だけが残った状態です。死んだ歯髄に細菌が感染して腐り(歯髄壊疽)、悪臭をはなちます。細菌や歯髄壊疽によって生じた毒素は歯根の先の穴(根尖孔)から周りの組織に侵入し、炎症をおこして歯槽骨を破壊し、膿がたまったりします(根尖性歯周炎)。さらに長期間そのままにしておくと、球形の肉芽腫ができたり(歯根肉芽腫)、膿のはいった袋(歯根嚢胞)になったりします。こうなると痛みはなくなりますが、細菌が病巣から血液によって運ばれて他の臓器や関節に二次感染を起こすこともあります(歯性病巣感染)。また、炎症が顎骨骨髄まで拡大してしまうと、顎骨が腫れて知覚麻痺をおこしたり、骨髄に膿が充満してそれが骨と皮膚を破って顔の外に出てきたりします(顎骨骨髄炎)。 治療は、消炎処置後に抜歯をします。