顎関節症

 顎関節症とは、顎関節部あるいはその付近の疼痛、顎関節雑音、下顎運動制限を主要症状とする非炎症性の慢性疾患のことであり、外来性外力、過度の開口、硬固物の咀嚼、異常な顎運動、充填物・補綴物の不適合、咬合異常などの慢性力学的異常刺激、咀嚼筋の異常緊張、精神的ストレスなどが原因となって発症します。
 つまり、顎関節症とは形態学的な変化と機能的要請との間の平衡関係が崩れた状態のことであり、以下のような症状があります。

スプリント 顎関節症 高橋ひろし歯科医院
顎関節症 高橋ひろし歯科医院

1)疼痛
 顎関節疾患の最も重要な主訴は疼痛です。疼痛は自発痛と運動痛に大別されます。自発痛は化膿性顎関節炎のように関節腔内に膿がたまり滑膜を刺激することによって発生します。滑膜には知覚神経終末が豊富に存在しているため、関節包に起こる様々な変化に敏感に反応します。
 運動痛の中には運動開始時の痛みがあり、これは骨関節症の特徴的な疼痛です。すなわち、咀嚼開始時に痛みがあり、咀嚼を始めると疼痛が軽快し、ある程度咀嚼を続けると再び疼痛が出現するという経過がみられます。

2)関節雑音
 関節雑音は症状の経過を把握するうえで非常に重要です。音の質により弾撥音(クリッキング)と摩擦音(クレピタス)の2つに大別されます。
 いつから関節雑音が起こったのか、あるいはいつ関節雑音が起きるのか、関節雑音が発現する前に疼痛が伴っていたかあるいは伴うか、関節雑音が発現する時期、音質などに変化はあったのかについて詳細に調べる必要があります。

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 関節雑音が相反性クリックの場合は顎関節内障である可能性が高くなります。開口ないし下顎前方運動路の往路において、あるいは閉口ないし下顎前方運動路の復路においてどの位置でクリックが生じるのかを知ることは、診断する上で重要になります。
 例えば、関節円板前方転位における相反性クリックは往路復路で相異なる位置で、すなわち往路においては開口初期、中期ないし末期にクリックが生じるのに、復路ではほとんどが閉口末期に生じます。一方、往路復路ともにほぼ同じ開口量でクリックが生じる場合は関節円板前方転位によるものではなく、不動性の障害物としての関節円板、関節窩や下顎頭の変形が考えられます。
 摩擦音は関節円板の穿孔、断裂や下顎頭の変形などの退行性変化を生じた関節包内の顎関節構成体における粗造面が接触滑走することによって生じるものと考えられていますが、十分には解明されていません。

3)下顎運動障害
 下顎運動障害は身体的および精神的ストレスによる結果として生じます。下顎切歯点の運動軌跡はクリック発現を境に患側変位から正中に弯曲した「く」の字を呈します。またクリックの発現時に顎関節部の疼痛ないし違和感を伴うことが多いです。
 開口運動中に開口障害を呈するものとして、その程度により関節円板前方転位(円板復位をともなう前方転位)と、関節円板完全前方転位(円板復位を伴わない前方転位)とに大別されます。

4)その他
耳の周囲の痛み、耳鳴り、めまい、頭痛、過労、不安、不眠などがあります。

顎関節症の症型の分類

1)顎関節症Ⅰ型
・顎関節部や顔面頭部の疼痛の訴えはあるが、顎関節雑音やその既往はない。
・咬筋部、頬部、側頭筋部に圧痛ないし鈍痛があり、これらの痛みによる睡眠障害、咀嚼、会話の妨げなどがある。
・歯ぎしり(ブラキシズム)、噛みしめ(クレンチング)の癖がある。
・頬粘膜ひだ、舌圧痕がみとめられる。
・咬頭嵌合位で下顎頭偏位並びに関節窩、下顎頭の形態に異常はない。

2)顎関節症Ⅱ型
・外来性顎関節部の外傷(顎部強打、過度の開口など)、内在性顎関節の外傷(硬固物咀嚼、大きなあくび、咬頭干渉や早期接触などの咬合異常)の明確な訴えがある。
・顎関節部の圧痛、安静時の疼痛、咀嚼時および咬合時の運動痛(多くは外傷性滑膜炎の存在による)がある。
・関節雑音は伴わない。

3)顎関節症Ⅲ型
・関節雑音(多くは相反性クリック)の訴えがあり、関節雑音発生時に伴う痛みがあることが多い。
・クリック(コキン、コッキン)発生までのオトガイ患側偏位がある。
・クローズドロック(疼痛を伴う関節運動障害)に移行した場合、クリックの既往、突然の開口障害、患側顎関節のひっかかり感と疼痛などがみられる。

4)顎関節症Ⅳ型
・関節痛(多くは顎運動痛、ときに耳痛)と濁った関節雑音(ギシギシ、ザリザリ、ガリガリ、ゴリ、ガリなどの摩擦音)、顎運動時痛、開口障害などの訴えがある。
・下顎頭の変形など

5)顎関節症Ⅴ型
・慢性疼痛(とくに心因性疼痛)、咀嚼系器官あるいは遠隔器官に対して様々な不定愁訴の訴えがある。
・精神的因子の関与が強く疑われる。