成長発育期の歯科医療

小児歯科医療について

 精神的にも、また形態的、機能的にも成長発育を続けている小児期全般にわたって、幅広く適切な歯科医療を施していくよう努力していかなければいけません。

 乳幼児期も極めて大事な時期ではありますが、混合歯列期から永久歯列の完成する学童期、思春期の歯科医療も、非常に重要です。

 う蝕治療も然る事ながら、小児期の口腔軟組織疾患、特に思春期の歯周疾患についても重要視していかなければいけないと思います。歯牙を喪失する二大疾患として、小児期のおける歯周疾患の処置を見逃してはいけません。

②健康管理

 口腔の健康を管理するためには、原始反射として口腔機能が発現する出生直後の時期から歯科的な管理を行い、正常に口腔機能が発揮しえる状態を作っていくために、う蝕、歯周疾患、咬合の処置をしていくことが大事であると思います。

 生理的な老化は医学的にも止めることはできない現象です。しかし、病的な老化や、医原性の老化は未然に防ぐことができると思われます。生理的な老化現象は進んでいく一方、顎口腔系の機能的バランスが保たれていることはとても大切なことです。加齢とともに歯は抜け落ち、歯周組織が壊されていくことは自然現象ではないと思われます。

保護者への指導も含めた小児の健康管理体系

1:子どもの健康管理の主体は保護者にある

2:口腔の健康管理の大切さ

・乳歯、永久歯の役割

・歯を失ったためにおこる障害


・歯科治療の限界


・口腔の三大疾患(う蝕、歯周疾患、不正咬合)、特にう蝕について


・う蝕予防の重要性

自然治癒がない
歯を失うことは生理的な現象ではない

・う蝕の予防法
1)う蝕の原因  
・歯質の問題(歯の形成時期)
・細菌の問題(口腔内常在菌)
・歯垢の問題(一番問題になる、歯垢形成に関与する要因 とくに糖質)

2)う蝕の予防
糖質の摂取で問題になるのは間食としての摂取(特に飲料 乳酸、炭酸飲料)

3)歯質の問題
乳歯は萌出後半年から一年半、永久歯は一年から三年間くらいがう蝕になりやすい

4)予防の原則
・一番目に大切なことは、口腔を汚さないこと:糖質をひかえる
・二番目に大切なことは、口腔をきれいにすること:刷掃(ブラシのとどきにくい裂溝、隣接面)
・三番目に大切なことは、歯質を強くすること:ミネラル
・四番目に大切なことは早期発見、早期治療:定期検診

③各デンタルステージにおける小児歯科診療

1)デンタルステージⅠA(無歯期)

歯科的問題として先天性歯、上皮真珠、口唇口蓋裂などがあげられます。
ⅰ:先天性歯
 出生時すでに放出していたり、あるいは新生児期(生後4週以内)に放出してくる歯を先天性歯といいます。大部分は下顎乳中切歯である場合と、過剰歯の場合とがあります。先天性歯は授乳期の吸啜運動に伴って舌下部粘膜に擦過傷を生じ、Riga-Fede病といわれる褥瘡性潰瘍を発させるばかりか、授乳障害や乳腺炎などを併発する点で、相応の処置を講じなければいけません。早期萌出歯の場合は2~3回に分けて切縁部を削合し、滑沢面を形成して、潰瘍の緩解を待ちます。

ⅱ:上皮真珠
 生後しばらくして乳歯の歯槽提歯肉部に白色光沢をもつ球状の腫瘤が出現することがあります。一般に口腔上皮と歯を連結している歯提は吸収されてしまいますが、吸収されずにその一部が残留し、角化して歯肉に真珠状の結節として出現するのが上皮真珠であり、多くは第1生歯萌出前後に自然に脱落消失するので放置しておいてよいです。

ⅲ:口唇裂・口蓋裂
 口唇裂は一般的に体重5㎏(生後3ヶ月頃)以後、口蓋裂は10㎏(1歳半)を目安として形成手術を行う傾向にあります。しかし、閉鎖手術により顎顔面の発育および咬合に異常を惹起するので、より正常に近づけるために適切な時期に口蓋裂矯正を行います。

2)デンタルステージⅠC(乳歯萌出期)

第1生歯の萌出が遅いことを心配する母親がいますが、遅くとも1歳前後にはほとんどが萌出してきます。萌出性歯肉炎が認められる場合があり、不機嫌になったり、いらいらすることがあります。しかし、口腔内の清掃保持につとめれば萌出するにつれて自然治癒します。

ⅰ:外傷の問題
 生後1歳3ヶ月頃では独り歩きができるようになりますが、この頃は母親のしっかりした監視下にあるので外傷は少ないようです。むしろ、転ばずに歩けるようになる2歳前後の、それも就寝中と安心している幼児の起床直後に頻発するといわれています。しかも、各家庭にはテーブル、階段など、幼児の転倒によって侵襲を蒙りやすい環境が、昔に比べて圧倒的に多く散在していることも原因になっています。したがって、幼児期に口腔領域を強打した既往をもつ例はかなり多いと思われます。
 受傷後の時間経過あるいは対応が外傷歯処置の成否を大きく左右するので、できるだけ早く受診するようにしてください。側方脱臼した場合、外傷が重度であったり、交換期が近い歯でなければ整復・固定を行います。

ⅱ:乳歯う蝕の問題
 萌出後2年以内は歯質上の問題から、う蝕感受性が極めて高いことがよくしられています。特に乳歯萌出期では上顎乳中切歯の近心隣接面、上顎乳側切歯の唇面う蝕が多く、増齢的に増加する傾向にあります。発育空隙の存在しない例では、正中部、すなわち上顎乳中切歯近心隣接面に初発することが多いです。
 また、いわゆる哺乳瓶う蝕を惹起させないよう気を付けなければいけません。乳歯萌出期のう蝕治療は、フッ化ジアンミン銀の連続塗布、あるいはセメントによる暫間充填を行うことが多いです。

3)デンタルステージⅡA(乳歯列期)

 乳歯列期(ⅡA)では徐々に恐怖心を取り除き、治療に慣れさせていくことが大事です。また、乳歯う蝕の早期発見がとても重要です。

ⅰ:乳歯う蝕の問題
 乳歯萌出期(ⅠC)では上顎乳切歯隣接面、唇面がう蝕歯面の中心でしたが、乳歯列期(ⅡA)になるとこれらの歯面からのう蝕発生はそれほど著明ではなくなり、乳臼歯咬合面および隣接面(第1乳臼歯遠心面、第2乳臼歯近心面)がう蝕発生の中心となります。
 とりわけ、乳臼歯隣接面う蝕は初期う蝕の発見が困難で、かつ進行も速く、この部の崩壊によってLeeway space(乳歯と永久歯の側方歯群間の大きさの差で、上下顎の第一大臼歯の近遠心的咬合関係が側方歯の交換完了時点までに正しく調整されるのに有効に利用される差と考えられている)が喪失し、その後の永久歯咬合に対して影響を与えてしまいます。
 ⅠC期まではフッ化ジアンミン銀の連続塗布、あるいはセメントによる暫間充填を行いましたが、ⅡA期では歯冠形態の正しい回復を目的とした長期的修復を適応します。しかし、象牙質に達したう蝕でも歯髄感染を起こしていないと考えられる場合は歯髄保護を第一義に考え、暫間的間接歯髄覆髄法、すなわち可及的に軟化象牙質を除去し、第2象牙質の形成を1ヶ月ほど待った上で修復を行う方法を選択することも重要です。

ⅱ:咬合の問題
 ⅡA期の咬合の問題として、反対咬合(下顎前突)、上顎前突、過蓋咬合、開咬、叢生などがあげられますが、これらの異常が骨格性のものであるかどうかの見極めが重要になります。しかし、この時期では咬合型の異常が大半であり、骨格型のものは少ないといわれています。
 乳歯咬合での開咬は悪習癖による場合が多いです。この時期では歯列に影響があらわれるのであれば、指しゃぶりなどの悪習癖を除去する必要があります。原因を除去すれば、大部分は自然治癒していきます。その他、咬合型、とくに機能異常の発見と除去によって咬合の改善を計りますが、例えば機能的反対咬合の場合では、乳犬歯咬頭などをトリミング(いわゆる咬合調整)すると容易に改善されることが多いです。

4)デンタルステージⅡC(第1大臼歯萌出期)

ⅡC期では萌出途上の第1大臼歯の保護が重要課題です。

 近年、乳歯う蝕の減少傾向と相反して幼若永久歯、とくに第1大臼歯のう蝕が増加の一途を辿り、萌出後2年以内にその70%がう蝕に罹患し、大部分が咬合面に初発しているようです。
 第1大臼歯は一般に下顎、上顎の順に萌出し、近心頬側咬頭が露出してほぼ1年でいわゆる臨床的歯冠が現出しますが、この時期では正常な咬合関係を成立するに至らず、ⅢA(前歯の萌出期)、ⅢB(側方歯群交換期)を経て安定したものになっていきます。
 したがって1年近くの間、自浄作用が十分行われない期間があり、しかもその間、3ヶ月ほど歯肉弁が介在し、う蝕発生の大きな要因となっています。歴齢上の最後臼歯であることと、扁桃部の発育が顕著な時期に当たるため、後方歯まで十分な口腔清掃が行なわれにくいなど、種々の要因が働いています。
 第1大臼歯の咬合面形態、とくに小窩裂溝の形状、歯肉弁の状態を考慮して、う蝕発生の予防をしていくことが大事です。

 また、その他の問題として、ⅡC期では、軽度な過蓋咬合を呈している場合がありますが、この過蓋咬合はこの時期に生ずる歯槽性の発育によって改善される場合があり、経過を観察します。

5)デンタルステージⅢA(前歯の萌出期)

ⅢA期は口腔変化の最も目覚ましい、activeな成長期です。数か月毎に定期検診を行うことが望ましいです。萌出直後の永久切歯を含めた幼若永久歯のう蝕も重要な診査項目ですが、前歯部と第1大臼歯の咬合関係にも留意すべき時期です。

ⅰ)咬合の問題
・第1大臼歯の咬合関係のチェック
・乳歯の晩期残存など萌出時期、萌出順序の錯誤の確認
・みせかけの異常(Ugly duckling stage:みにくいアヒルの子時代)

小児歯科医療 高橋ひろし歯科医院

永久切歯は当初、外方へ扇状に拡大しており、正中離開を呈しています。これらの歯軸の傾斜は永久犬歯の萌出と共に改善されていきます。しかし、この正中部の離開が自然治癒するものであるかのチェックは必要です。すなわち、上唇小帯の肥厚および正中過剰埋伏歯の有無を審査し、さらに正中離開が3㎜以上存在する場合は、自然閉鎖の可能性は少ないと思われます。(引用:成長発育期の歯科医療)

・下顎切歯の舌側位萌出
下顎切歯はまず舌側位に萌出し、萌出後徐々に歯軸を唇側に向け、下顎下縁平面に対する角度を増大させていきます。ただし、唇側傾斜するための余地があるか、不足していても犬歯間距離の増大が生じ唇側傾斜するための余地が創造される場合に限られます。

・前歯部のdiscrepancy(歯と顎骨の間に生ずる大きさの相違)の発現

切歯より歯冠幅径の大きな(永久切歯の歯冠幅径の合計は乳切歯の合計より上顎で7.5mm、下顎で5.1mm大きいといられる)永久歯が正常に配列するには、乳前歯部に発現する生理的歯間空隙と永久切歯の唇側傾斜による歯列の前方拡大と、犬歯間幅径の増大によって、これが補正されていくことによります。

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下顎切歯の場合、Ⅱ型(図)のように各切歯が直線状に接触しているならば、乳犬歯間に収容されていなくとも問題はありません。永久犬歯はやや唇側位に萌出し、切歯切縁を連ねた直線も次第に弧状を呈するようになります。Ⅲ型(図)のようにそれぞれが捻転していても、互いに僅かでも接触していれば側方へのactiveな刺激となりうるので、乳犬歯をdisking(歯肉縁下まで十分にしたりdiskingしないと無意味である)したり、抜去する必要はありません。Ⅳ型(図)のように中・側切歯が全く接触せず、側切歯が舌側位にある場合は、止むをえず乳犬歯を抜去することもあります。Ⅳ型(図)の場合乳犬歯のdiskingないしは抜去によって、切歯部の叢生状態は解消されることが多いです。
 上顎の場合、中切歯の位置異常は少ないが側切歯の舌側転位による同歯の逆被蓋は比較的多くみられます。中切歯が萌出しても乳側切歯近遠心部に空隙が存在するような場合、側切歯は良好な位置に萌出されることが期待されますが、側方への歯列の拡大越えて萌出余地が不足していれば容易に舌側転位してしまいます。上顎側切歯は下顎と異なり、舌側位に萌出ののち次第に唇側傾斜していくことはありません。したがって、側切歯切縁が僅かに舌側位に認められた時点で出来る限り唇側方向へ萌出を誘導する必要があります。また、側切歯の軽度な捻転、唇側傾斜は自然に修正されていくことが多いのに対し、中切歯の相対捻転などは解消されることが少ないといわれています。(引用:成長発育期の歯科医療)

ⅱ)う蝕の問題
 第1大臼歯とともに永久切歯、とくに叢生状態にある切歯の隣接面う蝕に対しては特別の注意が必要です。

ⅲ)その他の問題
 外傷および口腔周囲の悪習癖などがあります。外傷はその度合い、受傷時間、経過などにより対応が異なりますが、基本的には歯髄を残存させることを考え、次いで抜髄、再植を考慮します。

6)デンタルステージⅢB(側方歯群交代期)、ⅢC(第2大臼歯萌出期)

 小臼歯群と第2大臼歯の発育と萌出を十分に観察していく必要があります。
 また、第2乳臼歯の脱落によって第1大臼歯近心面が明視野となりますが、この歯面に白斑、着色、う蝕が認められることが多いので、この期を逃さずに処置することが望ましいです。